逸話篇

107. クサはむさいもの

 明治十五年、梅谷タネが、おぢばへ帰らせて頂いた時のこと。当時、赤ん坊であった長女タカ(註、後の春野タカ)を抱いて、教祖にお目通りさせて頂いた。この赤ん坊の頭には、膿を持ったクサが、一面に出来ていた。
 教祖は、早速、
 「どれ、どれ。」
と、仰せになりながら、その赤ん坊を、みずからの手にお抱き下され、そのクサをごらんになって、
「かわいそうに。」
と、仰せ下され、自分のお坐りになっている座布団の下から、皺を伸ばすために敷いておられた紙切れを取り出して、少しずつ指でちぎっては唾をつけて、一つ一つベタベタと頭にお貼り下された。そして、
 「オタネさん、クサは、むさいものやなあ。」
と、仰せられた。タネは、ハッとして、「むさくるしい心を使ってはいけない。いつも綺麗な心で、人様に喜んで頂くようにさせて頂こう。」と、深く悟るところがあった。
 それで、教祖に厚く御礼申し上げて、大阪へもどり、二、三日経った朝のこと、ふと気が付くと、綿帽子をかぶったような頭に、クサが、すっきりと、浮き上がっている。あれ程、ジクジクしていたクサも、教祖に貼って頂いた紙に付いて浮き上がり、ちょうど帽子を脱ぐようにして、見事に御守護頂き、頭の地肌には既に薄皮が出来ていた。