逸話篇

169. よう似合うやろな

教祖は、お年を召されてから、お側に仕えていた梶本ひさに、
「何なりと、ほしいものがあったら、そう言いや。」
 又、
 「何か買いたいものがあったら、これ、お祖母さんのに買いました。と言うて、持って来るねで。」
と、仰せになった。
 ある時のこと、行商の反物屋から、派手な反物をお買い求めになり、
 「これ、私によう似合うやろな。」
と、言いながら、御自分の肩先におかけになって、ニッコリ遊ばされ、それから、
 「これは、おまえのに取ってお置き。」
と、仰せになって、ひさにお与えになった。

 又、ある時のこと。長崎から来たというベッコウ細工屋から、小さな珊瑚珠のカンザシをお買い求めになり、やはり、御自分のお髪に一度おさしになってから、
 「これ、ええやろうな。」
と、仰せられて後、
 「さあ、これを、おまえに上げよう。」
と、仰せになって、ひさに下された。
 このように、教祖は、一旦御自分の持物としてお買い求めになり、然る後、人々に下さることが間々あった。それは、人々に気がねさせないよう、という御配慮からと拝察されるが、人々は、教祖のお心のこもった頂きものに、一入感激の思いを深くするのであった。