逸話篇

68. 先は永いで

 堺の平野辰次郎は、明治七年、十九才の頃から病弱となり、六年間、麩を常食として暮らしていた。ところが、明治十二年、二十四才の時、山本多三郎からにをいがかかり、神様のお話を聞かして頂いたその日から、麩の常食をやめて、一時に鰯を三十匹も食べられる、という不思議な御守護を頂いた。
 その喜びにおぢばへ帰り、蒸風呂にも入れて頂き、取次からお話を聞かせて頂き、家にかえってからは、早速、神様を祀らせて頂いて、熱心ににをいがけ・おたすけに励むようになった。こうして、度々おぢばへ帰らせて頂いているうちに、ある日、教祖にお目通りさせて頂くと、教祖が、
 「堺の平野辰次郎というのは、おまえかえ。」
と、仰せになって、自分の手を差し出して、
 「私の手を握ってみなされ。」
と、仰せになるので、恐る恐る御手を握ると、
 「それだけの力かえ。もっと力を入れてみなされ。」
と、仰せになった。それで、力一杯握ったが、教祖が、それ以上の力で握り返されるので、全く恐れ入って、教祖の偉大さをしみじみと感銘した。その時、教祖は、
 「年はいくつか。ようついて来たなあ。先は永いで。どんな事があっても、愛想つかさず信心しなされ。先は結構やで。」
と、お言葉を下された。