逸話篇

51. 家の宝

明治十年六、七月頃(陰暦五月)のある日のこと。村田イヱが、いつものように教祖のお側でお仕えしていると、俄かに、教祖が、
 「オイヱはん、これ縫うて仕立てておくれ。」
と、仰せられ、甚平に裁った赤い布をお出しになった。イヱは、「妙やなあ。神様、縫うて、と仰っしゃる。」 と思いながら、直ぐ縫い上げたら、教祖は、早速それをお召しになった。
 ちょうどその日の夕方、亀松は、腕が痛んで痛んで困るので、お屋敷へ詣って来ようと思って、帰って来た。教祖は、それをお聞きになって、
 「そうかや。」
と、仰せられ、早速寝床へお入りになり、しばらくして、寝床の上にジッとお坐りになり、
 「亀松が、腕痛いと言うているのやったら、ここへ連れておいで。」
と、仰せになった。それで、亀松を、御前へ連れて行くと、
 「さあ/\これは使い切れにするのやないで。家の宝やで。いつでも、さあという時は、これを着て願うねで。」
と、仰せになり、お召しになっていた赤衣をお脱ぎになって、直き直き、亀松にお着せ下され、
 「これを着て、早くかんろだいへ行て、
 あしきはらひたすけたまへ いちれつすますかんろだい
 のおつとめをしておいで。」
と、仰せられた。