逸話篇

64. やんわり伸ばしたら

 ある日、泉田藤吉(註、通称熊吉)が、おぢば恋しくなって、帰らせて頂いたところ、教祖は、膝の上で小さな皺紙を伸ばしておられた。そして、お聞かせ下されたのには、
 「こんな皺紙でも、やんわり伸ばしたら、綺麗になって、又使えるのや。何一つ要らんというものはない。」
と。お諭し頂いた泉田は、喜び勇んで大阪へかえり、又一層熱心におたすけに廻わった。しかし、道は容易につかない。心が倒れかかると、泉田は、我と我が心を励ますために水ごりを取った。厳寒の深夜、淀川に出て一っ刻程も水に浸かり、堤に上がって身体を乾かすのに、手拭を使っては功能がないと、身体が自然に乾くまで風に吹かれていた。水に浸かっている間は左程でもないが、水から出て寒い北風に吹かれて身体を乾かす時は、身を切られるように痛かった。が、我慢して三十日間程これを続けた。
 又、なんでも、苦しまねばならん、ということを聞いていたので、天神橋の橋杭につかまって、一晩川の水に浸かってから、おたすけに廻わらせて頂いた。
 こういう頃のある日、おぢばへ帰って、教祖にお目にかからせて頂くと、教祖は、
 「熊吉さん、この道は、身体を苦しめて通るのやないで。」
と、お言葉を下された。親心溢れるお言葉に、泉田は、かりものの身上の貴さを、身に沁みて納得させて頂いた。
註 一っ刻は、約二時間。