ある日、立花善吉は、その頃の誰もがそうであったように、大阪から歩いておぢばへ帰って来た。こうして、野を越え山を越え又野を越えて、十里の道のりを歩いて、ようやく二階堂村まで来た。そこで、もう一辛抱だと思うと、おのずと元気が出て、歩きながら得意の浄瑠璃の一節を、いかにも自分で得心の行くように上手に語った。が、お屋敷に近づくと、それもやめて、間もなく到着した。こうして、教祖にお目にかかると、教祖は、立花を見るなり、
「善吉さん、良い声やったな。おまえさんが帰って来るので、ちゃんとお茶が沸かしてあるで。」
と、仰せになった。このお言葉を聞いて、立花は、肌えに粟する程の驚きと、有難い嬉しいという感激に、言葉も出なかった、という。