逸話篇

118. 神の方には

 明治十六年二月十日(陰暦正月三日)、諸井国三郎が、初めておぢばへ帰って、教祖にお目通りさせて頂くと、
 「こうして、手を出してごらん。」
と、仰せになって、掌を畳に付けてお見せになる。それで、その通りにすると、中指と薬指とを中へ曲げ、人差指と小指とで、諸井の手の甲の皮を挾んで、お上げになる。そして、
 「引っ張って、取りなされ。」
と、仰せになるから、引っ張ってみるが、自分の手の皮が痛いばかりで、離れない。そこで、「恐れ入りました。」と、申し上げると、今度は、
 「私の手を持ってごらん。」
と、仰せになって、御自分の手首をお握らせになる。そうして、教祖もまた諸井の手をお握りになって、両方の手と手を掴み合わせると、
 「しっかり力を入れて握りや。」
と、仰せになる。そして、
 「しかし、私が痛いと言うたら、やめてくれるのやで。」
と、仰せられた。それで、一生懸命に力を入れて握ると、力を入れれば入れる程、自分の手が痛くなる。教祖は、
 「もっと力はないのかえ。」
と、仰っしゃるが、力を出せば出す程、自分の手が痛くなるので、「恐れ入りました。」と、申し上げると、教祖は、手の力をおゆるめになって、
 「それきり、力は出ないのかえ。神の方には倍の力や。」
と、仰せられた。