逸話篇

119. 遠方から子供が

 明治十六年四、五月頃(陰暦三月)のある日、一人の信者が餅を供えに来た。それで、お側の者が、これを教祖のお目にかけると、教祖は、
 「今日は、遠方から帰って来る子供があるから、それに分けてやっておくれ。」
と、仰せられた。お側の人々は、一体誰が帰って来るのだろうか、と思いながら、お言葉通りに、その餅を残して置いた。
 すると、その日の夕方になって、遠州へ布教に行っていた高井、宮森、井筒、立花の四人が帰って来た。
 しかも、話を聞くと、この四人は、その日の昼頃、伊賀上野へ着いたので、中食にしようか、とも思ったが、少しでも早くおぢばへ帰らせて頂こうと、辛抱して来たので、足の疲れもさる事ながら、お腹は、たまらなく空いていた。
 この四人が、教祖の親心こもるお餅を頂いて、有難涙にむせんだのは言うまでもない。