逸話篇

160. 柿選び

ちょうど、その時は、秋の柿の出盛りの旬であった。桝井おさめは、教祖の御前に出さして頂いていた。柿が盆に載って御前に出ていた。

教祖が、その盆に載せてある柿をお取りになるのに、あちらから、又こちらから、いろいろに眺めておられる。その様子を見て、おさめは、「教祖も、柿をお取りになるのに、矢張りお選びになるのやなあ。」と思って見ていた。ところが、お取りになったその柿は、一番悪いと思われる柿をお取りになったのである。そして、後の残りの柿を載せた盆を、おさめの方へ押しやって、

 「さあ、おまはんも一つお上がり。」

と、仰せになって、柿を下された。この教祖の御様子を見て、おさめは、「ほんに成る程。教祖もお選びになるが、教祖のお選びになるのは、我々人間どもの選ぶのとは違って、一番悪いのをお選りになる。これが教祖の親心や。子供にはうまそうなのを後に残して、これを食べさしてやりたい、という、これが本当に教祖の親心や。」と感じ入った。そして、感じ入りながら、教祖の仰せのままに、柿を頂戴したのであった。教祖も、柿をお上がりになった。

おさめは、この時の教祖の御様子を、深く肝に銘じ、生涯忘れられなかった、という。

150. 柿 明治十七年十月、その頃、毎月のようにおぢば帰りをさせて頂いていた土佐卯之助は、三十三名の団参を作って、二十三日に出発、二十七日におぢば...