逸話篇

45. 心の皺を

 教祖は、一枚の紙も、反故やからとて粗末になさらず、おひねりの紙なども、丁寧に皺を伸ばして、座布団の下に敷いて、御用にお使いなされた。お話に、
 「皺だらけになった紙を、そのまま置けば、落とし紙か鼻紙にするより仕様ないで。これを丁寧に皺を伸ばして置いたなら、何んなりとも使われる。落とし紙や鼻紙になったら、もう一度引き上げることは出来ぬやろ。
 人のたすけもこの理やで。心の皺を、話の理で伸ばしてやるのやで。心も、皺だらけになったら、落とし紙のようなものやろ。そこを、落とさずに救けるが、この道の理やで。」
と、お聞かせ下された。
 ある時、増井りんが、お側に来て、「お手許のおふでさきを写さして頂きたい。」 とお願いすると、
 「紙があるかえ。」
と、お尋ね下されたので、「丹波市へ行て買うて参ります。」 と申し上げたところ、
 「そんな事していては遅うなるから、わしが括ってあげよう。」
と、仰せられ、座布団の下から紙を出し、大きい小さいを構わず、墨のつかぬ紙をよりぬき、御自身でお綴じ下されて、
 「さあ、わしが読んでやるから、これへお書きよ。」
とて、お読み下された。りんは、筆を執って書かせて頂いたが、これは、おふでさき第五号で、今も大小不揃いの紙でお綴じ下されたまま保存させて頂いている、という。